未来のはずの時間を、勝手につじつま合わせする脳
脳の興味深い実験結果と、発達特性のあるお子さんとのつながりを書いた記事です。
以前お送りしたメルマガからの抜粋です。加筆修正をしご紹介します。
自分の意志で生きていると思い込まされている?
切り取られた時間
無意識の決定が先
自分が知覚していないだけで、
「切り取られた時間」
が実は存在しているとしたら・・・驚きませんか。
以前、講座に出てくださった方には少しお話したことがあるのですが、
慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野教授のご著書、
“脳はなぜ「心」を作ったのか”
で、いくつかの非常に興味深い実験結果が紹介されています。
まず1つ目は、
です。
つまり、自分で意識してから指を動かしている、と私たちは当たり前のように思っていますが、実際はその逆で、無意識下で指を動かすための筋肉の指令が先に脳内で行われ、その後で指を動かそうという指令が出されているのです。
なんと、あえてわざわざ、無意識で体が先に動いているのを
「自分が意識してやった」ように、順番を入れ替えてまで錯覚するようなプログラム
が脳に備わっているというのです。
これはもちろん指を動かすことだけではなくて、あれ食べよう、これやろう、これを言おうなどといったことにも当てはまることが容易に予想でき、世界に衝撃と論争をもたらしました。
昆虫や下等動物などは、本能(無意識)のまま行動していると考えられていますが、人間はそこにわざわざ面倒なシステムを搭載して、あたかも自分の意志で生きていることを味わっている・・・
私たちはそんな脳のつくり出すイリュージョンの世界を生きているらしいのです。
なかったことにされる時間
2つ目は、
ㅤㅤ
というものです。
つまり、見えていない時間はすっぽりと切り取られてしまい、見えていない時間=本来ならぽっかりと穴が開いたように感じる時間に、「未来で見るはずの景色」を「今見ている」と認識しているのです。
これらの実験からわかることは、ものすごい錯覚システムを人間の脳は搭載しているということです。
それを味わえることが進化した理由や証ではないかということですが、面白いですね。
感覚遮蔽タンク実験と発達特性のある子の感覚の類似
感覚遮断タンク
3つ目の面白い実験結果は、先述でご紹介した前野教授の別のご著書
”錯覚する脳”
で紹介されている感覚遮断タンクのお話です。
外部からの感覚を取り払った時に、人はどのように感じるかを明らかにするために、1980年、アメリカで開発された「感覚遮蔽タンク」というのがあります。
前野教授は、助手3人とともにこのタンクに入る実験をしました。
音も光も入らないタンクに体温と同じ液体が入っており、そのタンクの液体に横になって浮かんだ状態でフタを閉められ、90分間じっとしている、というものだそうです。
それぞれ個人差はあっても、真っ暗闇で、音も聞こえないタンク内の水に長時間浸かっていると、
“肉体を持っているという感覚が失われて行き、意識だけが残る”
という体験が得られるそうですが、前野教授や助手の方々の感想を読んだ時に、
「あ、これは発達特性がある(神経発達症、ASDなど)と言われている子たちの感覚にとても似ている」
と感じました。
・動かすにはちょっとした決心が必要
・無理やり動かそうとするとぎこちなくなる
・どうやって動かすのかを忘れた感じ
・腕を大きく振ったり股をゆっくり広げたりすると、予想より長い距離を動かしているような感じがした
・時間感覚が狂う
といったものです。
発達障害(神経発達症)というくくりで扱われている子どもたちは
「肉体と意識がうまく統合されていない」
ことが非常に多いのですが、それは感覚遮断タンクに入っている状態に近いかもしれない、とちょっと想像してみることは、共感度を高めたり、何らかの解決の糸口につながるのかもしれません。
いずれにしても、人間の脳についてはまだまだ未解明のこともたくさんあることでしょうし、不思議なことが起こる理由もこのあたりと関係があるのかもしれませんね。